争族にならないために―遺言書を残す目的と5つの誤解―

遺言を書く目的

皆さんは「遺言」というとどのような印象をお持ちでしょうか?

とっさにサスペンスドラマで亡くなった人の遺族が、遺産を巡って争っている場面を思い浮かべた、という方も少なくないのではないかと思います。

また「遺言」というと、「死」を連想してしまい暗いイメージをお持ちかもしれません。

さらには、「遺言書」と「遺書」との違いがわからないという方もいるかもしれません。

このように「遺言」という言葉にはネガティブイメージをお持ちの方も多いように思います。

しかし実際には、遺言を残そうとする人は、ご自身の亡き後に残された子供などのご遺族が、遺産の分割を巡って争うことのないように、また、遺産の分割で大変な思いをしないようにとの思いからご家族のことを思って遺言を作成する場合がほとんどです。

遺言を書く目的は、

「自分の死後、自分の意思に基づく相続を円滑に進めることができるようにすることであり、それによって相続争いを防ぐことにある」

ということができます。

すなわち、遺言書は残された家族や親族が争うことなく、安心して生活していけるようにするための最後の愛情表現であるともいえるのです。

遺言を書くことは、遺言者のみならず、相続人・受遺者のためでもあるのです。

念のために言っておきますが、「遺書」と「遺言書」は全くの別物です。

「遺書」は、自分の死を想定した人が、家族や友人などに自分の気持ちなどを記す手紙などを指し法的な制限を受けないのに対し、「遺言書」は民法で定められた法的文書であり、その様式や効力などは細かく規定されています。

遺言に対する5つの誤解

誤解1.円満な我が家は大丈夫

相続は死亡によって開始します。

今は「円満」な家族であっても、あなたの亡き後はどうでしょうか?

相続人となる子や兄弟姉妹には、配偶者や子供を含めそれぞれの家族がいたり思いや立場もそれぞれです。

もちろん円満に相続を進めることができるのが一番ではありますが、それぞれの思いが全て一致するとは限らず、問題なく進むはずであった遺産分割協議が思いがけず不本意なものになり、しこりが残ってしまうということも無いとは限りません。

「自分が存在しなくなった時の家族」を想像し、「自分の分身」としての「遺言」を残す

そうすることで、大切なご家族が円滑に相続手続きを進めることの助けになると考えられます。

誤解2.大した財産ではないから大丈夫

本人は「大した財産ではない」と思っていても、承継する側は「大した財産」だと思っている場合はよくあることです。

下の表は、令和元年に全国の家庭裁判所で扱われた遺産分割事件の財産額別の件数とそのパーセンテージです。

総数1000万円以下5000万円以下1億円以下5億円以下5億円を超える算定不能・不詳
72242448309778049042367
100%34%43%11%7%0.5%5%
出典:総務省司法統計ー遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)遺産の価額別 全家庭裁判所

ここで注目してほいしいのは、財産の額が少ない方が遺産分割でもめているということです。

一番の多いのが1000万円超~5000万円以下の43%で次が1000万円以下の34%、つまり、全家庭裁判所の遺産分割事件のうち、5000円以下の財産額だけで全体の77%を占めているということです。

財産額が5000万円を超えると、件数はいっきに減り、1億円以下で11%、5億円以下で7%、5億円を超えると1%にも満たなくなります。

財産が少額の方が遺産分割でもめやすく、高額になるほどもめにくい

ということが、このデータから読めます。

テレビドラマの中で遺産分割でもめているのは、大変な資産家ばかりのようなイメージでしたが、実際には、そのような資産家よりも、ごく一般的ともいえる家庭のほうが、遺産分割でもめてしまっているということになります。

このデータからうかがえることは、高額な資産を持っている家庭というのは、そもそも相続の時には専門家に相談し、きちんと対策をしているから、実際に相続が発生したときにはスムーズに進み、争いになることが少ないということなのかもしれません。

誤解3.なんだか縁起が悪いイメージ

遺言と聞くと「死」を連想させるので「縁起が悪い」と思われがちです。

「死ぬこと」や「死んだ後のこと」なんて考えたくもない、今は考えないようにしよう… そう考える方もいるかもしれません。

実際には遺言書を作成するにあたって、ご自身の亡き後のご家族や財産について、不確定な未来への漠然といた不安を正面から見据え、整理して考えるという過程を経て、それまで頭のなかであれこれ思い悩んでいたことが、遺言書という文書にするということで、ハッキリして気持ちがすっきりし、爽快感を得ることができます。

また、遺言書を作成するために、民法を学んだり、財産を整理したり、公正証書遺言の場合には公証役場に行ったり、自筆証書遺言の場合には様式に従って、自身で遺言書を書き上げる必要があったりと、さまざまなことを乗り越えて遺言書を作り上げることによって、達成感を得ることになります。

遺言を書くという作業は決してネガティブなものではなく、遺言書を書き上げることにより、爽快感や達成感を得ることができる

誤解4.遺言なんてまだ早い

遺言を書くということは想像以上に心理的負担がかります。

よって、遺言は心身が健康なうちに残すことが大切です。

遺言は「遺言能力」を有していなければ遺言をすることができません(民法963条)。

遺言能力とは、遺言をするために必要な行為の結果を弁識・判断するに足る意思能力で、遺言能力を欠いている場合、その遺言書は「無効」となってしまう危険があります。

病気や事故は思わぬ時に突然やってくるものですし、コロナのような疫病のリスクも深刻なものであります。

遺言書を仕上げるだけの気力と体力のあるうちに、作成に取り掛かることをお勧めします。

遺言を書くのなら、心身が健康で気力体力を費やす余力のある今のうち

すこしでも必要性を感じた時に準備を始めるのが重要です。

誤解5.遺言書に記載した財産は自分が使えなくなる

一度遺言書を作成し、財産を相続や遺贈する旨を文書にしてしまったら、万が一自分がその財産を処分する必要が生じた場合に、自分がその財産を売るなどすることができなくなってしまうのではないか?

と誤解している人もいるのではないでしょうか。

いいえ、そんなことはありません。

遺言書に財産を相続・遺贈などさせる旨を記載したとしても、遺言の効力は遺言者の死亡の時から発生し(民法985条)、遺言の内容と抵触する生前処分の行為は、遺言を撤回したものとみなす(民法1023条)と定められています。

また、遺言者はいつでも遺言の方式に従ってその遺言の全部または一部を撤回できます。

遺言書により相続等させる旨を指定した財産でも、遺言者は生前に処分することができ、遺言者はいつでも遺言を撤回することができる

遺言は誰のため?

いかがでしたでしょうか?

ここまで読んでいただけると、遺言に対するイメージも少し変わってきたのではないでしょうか?

遺言書を残すということは、決して縁起の悪いことでもドラマの中だけのことでもありません。

「死」というのは、誰もがいずれは迎えるものです。

しかし、なんとなく漠然と不確かな未来を不安に思っているよりも、ある時点でしっかりとご自分のご家族への気持ちを考え、ご自分の死後にご家族にどうしてほしいか、財産の配分はどのようにしたいのか、さらには生前に特に世話をしてくれている人へ財産を残すことを検討したり、自分の死後に、気がかりな者をサポートしてもらう目的で、特定の者に財産を多く残したい、といった場合には「負担付き遺言」や「遺言信託」なども検討の余地もあります。

遺言をすることは本人だけでなく家族のためでもある

そのような機会を検討せずにスルーしてしまうのではもったいないと思いませんか?

遺言についてもっと知りたいと思ったら

現代では、何か知りたいことがある場合には、専門家が書いた書籍で勉強する以外にも、インターネット上で多くの情報を手に入れることができます。

まずは携帯電話やパソコンで検索してみるという方も多いと思います。

実際にそれで必要な情報のほとんどが手に入ると思われます。

しかしながら、独学で知識を収集した場合の欠点として

  • 自分に必要な知識の範囲が分らないため、必要以上に時間がかかってしまう。
  • たくさんの文章を読んだのに、結局どの方法が自分にとってベストなのか判断がつかない
  • 間違った知識のまま作成してしまうと無効な遺言書になってしまう可能性がある
  • ある程度調べた時点で満足してしまって行動にうつせない

などといったことがあげられます。

そのような時は専門家にご相談することをお勧めします。

当事務所では、しっかりとお話をお聞きした上で、あなたに必要な情報を提供し、ご依頼者様が必要最小限の労力で目的を達成できるようサポートいたします。